動画広告の種類と活用方法 ~初めての動画広告から学んだ成功のポイント~

動画広告の種類と特徴

3種類の動画広告(概要)

2011~2012年頃、YouTubeのインストリーム広告をはじめ、動画広告という広告フォーマットが登場しました(登場したのはこの頃ですが、普及の兆しが見えてきたのは2013年くらいだったかと)。動画広告には3種類あります。まずはこの違いを押さえておきましょう。

インストリーム動画広告
  • YouTubeなどの動画サイトで配信される従来のバナー広告よりも大画面で表示できるタイプの広告。音声がデフォルトでON。2015年6月現在、主流の動画広告フォーマット。
  • インストリーム動画広告の中でも、ユーザーが視聴する動画コンテンツの前に再生されるタイプの広告を「プリロール動画広告(プレロール動画広告)」と呼ぶ。
  • インストリーム型が登場した当時は、プリロール広告(プレロール広告)が多かったが、2015年現在では、動画の視聴中・視聴後に流れる広告も増えている。
  • 動画広告表示後、数秒後にユーザーが視聴選択できる「スキッパブル広告」と、強制的に視聴させる「ノンスキッパブル広告」があり、ノンスキッパブルではTVCMと同じ尺(15秒)がほとんど。一方、スキッパブルでは1分30秒~数分の動画広告も増えており、動画広告のブランディング活用が進んでいることを感じさせる。
インバナー動画広告
  • 従来のバナー枠に配信されるタイプの動画広告(インディスプレイ広告とも呼ぶ)。基本的に音声はデフォルトでOFF。
  • 動画DSPなどでプログラマティックに配信されることが多い。
  • リッチメディア配信に強みを持つ3PASでは、このインディスプレイ型広告に“マウスオーバー2秒でエキスパンド表示”など、インタラクティブな要素を加え配信できるものもある。
インリード動画広告
  • 3つの動画広告フォーマットの中では、最も新しい動画広告のフォーマット。
  • ユーザーがWebページをスクロールして動画広告が画面に表示されたら動画が再生されるという仕様の広告。インリード広告とも呼ぶ。
  • ユーザーがWebページをスクロールして動画広告が画面に表示されたら動画が再生されるという仕様の広告でメインコンテンツ中にあることが条件。単にスクロールして表示される広告はインスクロール広告と呼ばれる。
  • スマートフォン向けプロモーションを中心とした活用が期待される。

インストリーム広告の特徴

2015年8月現在、主流の動画広告フォーマットです。「映像」「音声」「文字」を使い、さらに「大画面」で、商品やサービスの魅力を効果的にユーザーに伝えることができます。

CPV課金(広告視聴単価課金)方式がとられる場合が多く、例えば、YouTubeのTrueView動画広告は“完全視聴単価”方式(CPCV課金)が採用されており、広告がスキップされたり、途中でブラウザを閉じたりして、広告の視聴が中断された場合(もしくは30秒未満の再生の場合)は課金されません。

広告が最後まで再生された場合(もしくは30秒以上再生された場合)のみ課金されるので、広告投資のリスクが抑えられます。

従来のリスティング広告やディスプレイ広告では、CPC(クリックあたりコスト)やCPM(1,000回インプレッションあたりコスト)が使用されていましたが、動画広告の場合は、TVCMのように“視聴”させることが重要なので、このような課金形態がとられることもあります。

「コンパニオンバナー」と呼ばれるバナー広告を、動画広告が再生されるページに同時掲載できるメディアもあります。また、動画対応のDSPを利用することで、プログラマティックに複数の動画サイトに広告配信することができます。その場合は、メディアではなくDSPの課金形態に合わせることになるので、従来のディスプレイ広告と同様のCPM課金となる場合が多いです。

インバナー広告の特徴

DSPなどで、動画視聴サイト以外の広告枠に配信できます。動画視聴サイトの利用が少ないユーザーに対しても、従来のディスプレイ広告と同様に「リターゲティング」や「オーディエンスターゲティング」などでターゲティングして配信できます。つまり、リーチ(在庫量)とターゲティングが特長です。

マウスオーバーで拡大するなど、インタラクティブな設定を行えるDSPもあります。ただし、動画のファイルサイズによって配信費が変動する場合も多く、CPMは静止画の数倍~数十倍となります。

上記のようなメリットは確かにあるのですが、2015年6月現在、インストリーム型の方が主流の動画広告フォーマットであり、現在の動画広告市場の急速な成長は、インストリーム型の動画広告が牽引していると言えます。

インバナー広告

インリード広告の特徴

インバナー広告の場合、広告が画面に表示されていなくても再生が始まってしまいますが、インリード広告では動画の最初から見せることができるため、ストーリー性を持ったクリエイティブとの相性が良く、また、メインコンテンツと同じ枠に表示されることから、通常のバナー広告よりも視認性が高くなるというメリットがあります。

また、動画広告の位置までスクロールした時に、アニメーションで動画プレーヤーを表示するなど、ユーザーの注目を集めるような仕組みもあります。こちらのサイトでデモが見られます↓

ネイティブアドの広告フォーマットの1つ「インフィード広告」の動画バージョンという理解で良いです。似たように動画広告に「インスクロール広告」もありますが、下記の関連記事で「インリード広告」「インフィード広告」「インスクロール広告」の違いを解説していますので、ご覧いただければと思います。

動画広告 ~インストリーム型動画広告の配信事例~

ここからは実際に動画広告を配信した事例について書きます。

※この事例は「ad:tech tokyo 2013」の株式会社オムニバス様のセッションでお話しした内容で、プリロール動画広告(プレロール動画広告)の事例です。

まずは、広告用動画の制作

動画というクリエイティブの特徴から、直接的な訴求よりも、“視聴”に適したブランドイメージを重視した動画を制作しました。

当時よりも現在は動画制作会社の数がかなり増えており、今はそれなりのクオリティの動画が20万円程度から制作可能な場合もあります。

この頃(2013年7月頃)は動画広告を実施している企業も少なく、試験的な実施だったため、全キャスティングを自社の社員で撮影することでキャスティングコストを削減しました。

動画広告用ランディングページの制作

ランディングページは、レスポンス効果を狙った既存のLPを使用することも考えましたが、動画の世界観と合わなかったため、新しいブランディング向けの動画LPを新しく用意しました。

動画広告を実施する上で、“動画の世界観に合わせたLPを用意すること”は非常に重要です。

ユーザーは、リッチなクリエイティブに惹かれてクリックしたにも関わらず、リンク先が「画像のみで作られた1枚画像のLP」だった場合、残念な気分になるはずです(これは著者のユーザーとしての体験からです)。

ブランド、ブランディングという言葉は少し曖昧ですが、「商品やサービスを買ってもらう」ではなく、「商品やサービス、さらにはそれを提供している企業のことを“好きになってもらう”“覚えてもらう”」と簡単に解釈しています。本当は「認知度」「好意度」「メッセージ想起」「購入意向」などのブランディング指標と呼ばれるものはあります。しかし、クリエイティブを制作する上では、○○指標よりも文章の方が目的を意識してクリエイティブを考えられます。

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制作したランディングページはコチラ

(注意!)検索流入からの離脱

広告をクリックしたユーザーは、LPに辿り着き、こちらが描いたストーリー通りの行動をしてくれました。ただし、動画広告視聴者の大半がクリックしないユーザーです。クリックしないユーザーでも、広告に興味を持ったユーザーは検索して、情報を探そうとします。

検索に使用したキーワードは、おそらく動画に常時表示していた「社名」だと思います。しかし、社名で検索した場合、ランディングページは検索結果に上がってきません。検索結果の1位に表示されるのはいつものトップページです。さらに、トップページには動画用LPの導線は何もありません。

このことから、せっかく通常の数倍のアクセスを動画広告によって獲得できたにも関わらず、動画広告と検索流入したトップページのイメージのギャップをユーザーに感じさせ、90%以上を直帰させてしまうという残念な結果でした。

動画広告視聴後の導線

動画広告視聴後の導線を改善

前述のような“検索流入からの離脱”を防ぐために、2つの施策を実施しました。1つは、動画に常時表示している検索ボックスの中のワードを「動画広告用LPが1位表示されるワードに変更」、もう1つは「社名検索で1位表示されるトップページに動画用LPへの導線追加」です。これにより、離脱率を大幅に下げることができました。

動画広告視聴後の導線を改善 TOPに動画用LPへの導線追加

「配信サイト精査」で費用対効果を改善

DSPなどのプログラマティックな広告配信では「枠の品質」が大きな課題ですが、今回、動画DSPを用いて多数の動画サイトにプリロール型の動画広告を配信したため、同じような課題がありました。

広告配信後しばらくして、サイト精査(効果の悪いサイトの配信を人の目でチェックして配信を止める)ことを実施しました。右のグラフを見ていただくと分かる通り、サイト精査を実施した9/11以降、動画のインプレッションは急激に落ちていますが、サイト訪問数への影響は軽微です。

つまり、 “人の目のチェック”も大事だということです。動画DSPを利用した場合、多くのメディアに配信できることが魅力ですが、中には効果の悪いサイトも多くあります。実際にこの方法で、サイト訪問数を確保したまま、広告コストを抑えることができます。

このように、キャンペーン期間中であっても改善施策が実施できるのは、運用型広告の大きなメリットです。

サイト精査による費用対効果の改善

配信結果 サイトアクセス数

動画広告配信後、ページビュー(ランディングページ含むサイト全体)が大幅に上昇しました。具体的な数値は明かせませんが、もともと数十万PV/日あるサイトが、数百万PV/日規模になりました。指名検索によるサイト流入が大幅に増えたことが要因でしたので、動画広告視聴後の検索(ビュースルーサーチ)が相当数あったのだと考えています。

当時はビュースルーサーチ数を正確に計測することはできませんでしたが、現在はビュースルーサーチを計測できるDMPもあるので、動画広告の効果測定は以前よりもずっとハードルが下がっています。

動画広告配信後のページビュー推移

配信結果 コンバージョン

今回の動画は10~30代の女性をターゲットにした動画広告です。下図は、そのターゲット属性のコンバージョン推移です。見ていただくと分かる通り、動画広告実施後、全てのターゲット属性が急激に伸びています。

この期間広告投下量に大きな変化はなく、毎月ほぼ固定の出稿量だったため、動画広告はブランドリフトだけでなく、直接的にコンバージョンへも寄与していると言えます。

また、広告の残存効果が他のクリエイティブよりも高い(長い)とも推測しています。動画広告は実施後半年(14/01)くらいに渡り、ある程度の投下量で出稿しており、その後は最初に投下した予算の5~10分の1くらいで出稿していました。しかし、コンバージョンは14年11月までは高い水準を保ったままです。

動画広告のコンバージョン(CV)

【コスト検証】静止画広告との比較

クリエイティブに差がありすぎるので一概には言えませんが、それでも動画広告の方がクリックされやすいと言えます。実際に静止画のクリエイティブは何パターンも作っていますが、ここまでのクリック率が出たクリエイティブはありませんでした。

しかし、動画広告の効果指標として、Web特有の「CTR」「CVR」「CPA」だけを見ていくのは、違和感があると感じています。動画広告を実際に使ってみて、TVCMに近い印象を受けました。

そのため、定量的な指標としては今までの静止画の広告にはなかった「視聴単価」や「リーチ単価」、さらには定性的な評価指標も必要になると思います。詳しくは「動画広告の課題とこれから」で後述しております。

動画広告と静止画広告の比較

動画広告の課題とこれから

普及が遅れる日本の動画広告

Webマーケティングの業界では、「だいたいアメリカの2~3年遅れで同じものが日本で普及する」と言われていますが、動画広告については5年以上遅れて、やっと芽が出てきた印象です。

まず、課題として分かりやすいのが「動画制作に関するコストとリソース面(広告主側)」。動画コンテンツの制作にはコストも時間もかかります。TVCMを制作した経験がある大手ならまだしも、今までリスティング広告やバナー広告の経験しかない中小企業が動画広告に踏み切るには、「配信」の前に「制作」という壁があります。

また、大手であっても日本独自の著作権構造の複雑さから、今までTVで利用してきたコンテンツをそのままWebで利用することが難しいといった問題もあるかと思います(現在は改善されてきている)。

次に、広告主が動画広告の効果を「今までのWeb広告と同じ土俵で考えてしまったこと」です。つまりは直接CVやCPAのみによる評価。動画広告は今までのWeb広告とは位置づけが異なります。これが得意とするところはブランディングであり、その効果を正当に評価し、広告主を納得させるブランディング指標を用意できていなかった広告媒体社や広告代理店など販売サイドの課題だと思います。

動画広告の価値と、ブランディング指標の重要性

動画広告は“今までのWeb広告になかった新しい価値”を広告主に提供してくれます。その新しい価値、「ブランディング」というものを販売サイドが広告主に対して説明できるかが重要なポイントとなります。

「なぜ多くのブランド広告主がTVCMに出稿するのか?」

広告効果が高いことを知っているからです。動画広告の位置づけを理解し、ブランディングというものの重要性を理解してるブランド広告主の動画広告へのバジェットシフトは今後加速していくでしょう。年間、数億~数十億の予算をTVCMに投下する広告主は、市場調査会社などを通じて、これを評価する方法を持ち合わせているのです。

一方、このようなブランディング広告の経験がない広告主は、販売サイドがブランディング指標(KPI指標)を明確に提示できないと、動画広告の普及は難しいでしょう。この指標が難しく、これを正確に計測するには、Webで自動的に計測できるような指標以外にも広告視聴者への「リサーチ」が必要になります。

別に自分が所属している調査会社を宣伝しているわけではありません。むしろ、力不足だと感じています。現在の調査会社の数十~数百万のサービスでは、結局のところ、「動画広告はブランド広告主のもの」という結論になってしまいます。

広告主でありながら、市場調査会社というプレーヤーサイドに近い立場の身としては、頭を悩ませるところです。

広告主として、動画広告への期待

2015年現在、日本ではやっと普及が見えてきた印象の動画広告ですが、アメリカではその市場性は明らかになっており、2016年には90億ドルを超えるという予測も出ています。国内においても、動画サイトの利用ユーザーは全インターネットユーザーの半数を超え、特に若年層を中心にその利用は現在も拡大しています。

マルチスクリーン化を背景に、TVからWebへのユーザーの“時間”のシフトは確実に起きています。この時代のブランディング手法として、個人的に動画広告には大きな期待を寄せています。良いコンテンツを作れば、ソーシャルメディアで話題になり付加価値を生むことだってあるし、TVCMの数十分の1の予算で実施できる。

ただし、「動画広告はブランド広告主のためだけのものじゃない、断言できる。」

むしろ、今までブランディング広告を打ちたくても打てなかった広告主にとっての好機だと捉えています。ただ、これに踏み切るだけの根拠(期待)が見つからないのと、「ブランディング」という分かりづらいワードをどう捉えていいか分からないだけだと思っています。

「甘えてる。」と思われるかもしれませんが、販売サイドの方には、このような広告主のことを決して置いてけぼりにはしないで欲しいのです。

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この記事の著者

広瀬 信輔(ひろせ・しんすけ)

マーケティング情報サイト『Digital Marketing Lab』の運営者。

1985年、長崎県佐世保市生まれ。西南学院大学 経済学部 国際経済学科 卒業。

2008年、株式会社マクロミルに入社。現在は同企業のオンラインマーケティング部門の責任者として、デジタルマーケティングを推進。

株式会社イノ・コード 取締役 CMOも務める。

2017年、ディーテラー株式会社を創立。メディアプランニング、Web広告運用、SEO対策、Webサイト制作など、デジタルマーケティング領域のコンサルティング及びアウトソーシングサービスを提供。ビジネスメディアでのコラム執筆やイベント出演、大手企業のマーケティングを支援。

2021年、公正取引委員会 デジタルスペシャルアドバイザーを受嘱。デジタル市場における競争政策の的確な運営のために活動。

著書:『アドテクノロジーの教科書』(版元:翔泳社)

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