リスティング広告の入札単価調整
ICC分析 ~ROIを最大化する入札単価調整のテクニック~
はじめに
ICC分析とは、「Incremental Cost Per Click」つまり「増分CPC」を使った入札単価最適化のための分析手法です。これはGoogleのHal Varian(ハル・ヴァリアン)氏の「Google AdWords Bidding Tutorial」という動画をもとにしたもので、少しアレンジを加えています。
簡単に説明すると、クリック期待値(クリック1回あたりの価値)と増分CPC(増えるクリック1回にかかるコスト)を比較して、『収益を最大化させるCPC』を導き出す分析手法です。
このICC分析を使って、ROIを最大化するための入札単価調整の手順を説明します。
キーワードの収益期待値を算出する
まずは、CVを保ちながらアカウント全体で削減するコストを決める
ここからは、あるリスティング広告のアカウントの例を使って説明していきます。
「実際のCPA」から「アカウントの目標CPA」を差し引いて、その数値(CPA差分)に「CV」を掛けると削減必要コスト(CVを維持しながら削減しないといけないコスト)が算出できます。
アカウント全体 | 金額 | 算出方法 |
---|---|---|
【1】目標CPA | 3,000円 | |
【2】実際のCPA | 4,000円 | |
【3】CPA差分 | 1,000円 | 【2】-【1】 |
【4】CV | 100件 | |
【5】削減必要コスト | 100,000円 | 【3】×【4】 |
この例では、アカウント全体で100,000円のコストを削減できれば、目標CPAに届くことになります。
各キャンペーンに削減必要コストを負担させ、「目標CPA」を設定する
キャンペーンごとに削減必要コストを割り振ります。今回の例では、各キャンペーンのコスト比率に合わせて負担させていますが、特に正解はありません。
入札単価に改善の余地がありそうなキャンペーンに負担コストを割り振ってください。
キャンペーン | コスト | CV | CPA | コスト比率 | 負担コスト | 目標コスト | 目標CPA |
---|---|---|---|---|---|---|---|
A | 240,000円 | 50件 | 4,800円 | 60% | 60,000円 | 180,000円 | 3,600円 |
B | 160,000円 | 50件 | 3,200円 | 40% | 40,000円 | 120,000円 | 2,400円 |
「実際のコスト」から「負担コスト」を差し引いて「目標コスト」を算出します。これをCVで割った結果が「目標CPA」となります。
キーワードごとの平均CVRを算出する
これ以降は「キャンペーンA」の中の話になります。
キャンペーンAの中にあるキーワード「a1」「a2」の直近の平均CVRを算出します。
キーワード | 1月 | 2月 | 3月 | 平均CVR |
---|---|---|---|---|
a1 | 10% | 15% | 20% | 15% |
a2 | 5% | 10% | 7% | 7% |
クリック期待値(クリック1回あたりの価値)を算出する
クリック期待値とは、クリック1回あたりの価値、目標CPAを達成するために「クリック1回に使える上限コスト」を意味します。ここでは、目標CPAをキャンペーンの目標CPAで計算していますが、広告グループやキーワードなど、分析を細かくすれば、より精度は上がります。
キーワード | 1月 | 2月 | 3月 | 平均CVR | キャンペーンの目標CPA | クリック期待値 |
---|---|---|---|---|---|---|
a1 | 10% | 15% | 20% | 15% | 3,600円 | 540円 |
a2 | 5% | 10% | 7% | 7% | 3,600円 | 176円 |
- 【クリック期待値の求め方】
-
- クリック期待値 = 「目標CPA」×「平均CVR」
上の例では、「キーワードa1」は540円、「キーワードa2」は176円以下のクリック単価なら利益が出ます。同じユーザーが今後サイトにアクセスして商品をリピートする可能性を考えて、クリック期待値を意図的に引き上げてもOKです。
実際のCPC(落札価格)は設定した入札単価以下となるため、「クリック期待値」をそのまま入札単価に設定すれば、最悪でも広告費用と収益は差し引き引きゼロになります。
ただし、CVRはランディングページやアカウントの運用方法、その他の外部要因など、様々な影響を受け変動するので、常に最新のデータで計算しましょう。
どの入札単価で収益が最大になるか? ~クリック期待値に近い入札単価でテストする~
ここからは「キーワードa1」についての内容となります。
上の例では、クリック単価540円で利益が出ることが分かりました。しかし、これが収益を最大化する入札単価とは限りません。
なぜなら、クリック数に応じてコストが発生するので、収益を最大化するには、「クリック×クリック期待値 = 売上期待値」と「コスト」のバランスを加味した「収益期待値」を計算しないといけません。
以下では、「どの入札単価で収益が最大になるか」を求めていきます。
キーワード | 入札単価 | 平均CPC | クリック | コスト | クリック期待値 | 売上期待値 | 収益期待値 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
a1(単価変更前) | 450円 | 380円 | 120件 | 45,600円 | 540円 | 64,800円 | 19,200円 |
a1(単価変更後) | 500円 | 400円 | 150件 | 60,000円 | 540円 | 81,000円 | 21,000円 |
- 【売上期待値の求め方】
-
- 売上期待値 = 「クリック」×「クリック期待値」
- 【収益期待値の求め方】
-
- 収益期待値 = 「売上期待値」-「コスト」
上の例では、単価変更後の方が収益が高くなっています。
ICC分析で入札単価を調整する
ICC分析 ~クリック期待値と増分CPCを比較して入札単価を調整する~
「収益期待値の算出」の表から増分CPCを求めます。
キーワード | 入札単価 | 平均CPC | クリック | コスト | クリック期待値 | 売上期待値 | 収益期待値 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
a1(単価変更前) | 450円 | 380円 | 120件 | 45,600円 | 540円 | 64,800円 | 19,200円 |
a1(単価変更後) | 500円 | 400円 | 150件 | 60,000円 | 540円 | 81,000円 | 21,000円 |
差分 | 30件 | 14,400円 |
- 【ICC(増分CPC)の求め方】
- ICC = 「コスト差分」/「クリック差分」
上の例の増分CPCは「14,400円」/「30件」=480円になります。つまり、増えるクリック1回につき、480円のコストが発生しています。
クリック期待値は540円なので、クリック1回の価値よりも安いコストでクリックを獲得できたことになり、この場合「入札単価を引き上げる」という判断ができます。
増分CPCがクリック期待値に最も近くなる入札単価を設定しましょう。
- ROIを最大化する入札単価調整のテクニック
-
- クリック期待値 > ICC ⇒ 入札単価を引き上げる
- クリック期待値 < ICC ⇒ 入札単価を引き下げる
入札単価を引き上げると、増分CPCがクリック期待値を上回ることがあります。これは、「新しいクリックを獲得できる」一方、「今まで低い入札単価で獲得できていたクリックの単価が高くなる」ということも同時に起こるためです。
しかし、増分CPCがクリック期待値を上回っていても、実際の費用が設定した入札単価を超えることはありません(※CPCは必ず入札単価以下になるため)。
その他の入札単価調整のテクニック
CPAでソートして調整
目標CPAよりCPAが高いキーワードの入札単価を引き下げる
目標CPAよりCPAが低く、掲載順位が低いキーワードの入札単価を引き上げる
※単価を上げることで、CPAを抑えてCVを獲得できる可能性がある
コストでソートして調整
例)「コストが高い&CVなしキーワード」をチェック ⇒ 停止/削除 OR 入札単価を引き下げる
First Page Bidの対処
管理画面で確認できます。「First Page Bid」 = 1ページ目に表示させるための最低金額のことです。
効果が良いキーワードはこれを超えて入札しましょう。また、First Page Bidを超えて入札することで品質スコアの改善にも繋がります。
ページ上部表示の推定入札単価
First Page Bid」と同じく管理画面で確認できます。指名系のキーワードやCV獲得の主力キーワードはこれを死守!
だし、キーワードマッチや広告スコアとも関係があるので、プレミアムポジションの表示が約束されるものではありません。
この記事の著者
広瀬 信輔(ひろせ・しんすけ)
マーケティング情報サイト『Digital Marketing Lab』の運営者。
1985年、長崎県佐世保市生まれ。西南学院大学 経済学部 国際経済学科 卒業。
2008年、株式会社マクロミルに入社。現在は同企業のオンラインマーケティング部門の責任者として、デジタルマーケティングを推進。
株式会社イノ・コード 取締役 CMOも務める。
2017年、ディーテラー株式会社を創立。メディアプランニング、Web広告運用、SEO対策、Webサイト制作など、デジタルマーケティング領域のコンサルティング及びアウトソーシングサービスを提供。ビジネスメディアでのコラム執筆やイベント出演、大手企業のマーケティングを支援。
2021年、公正取引委員会 デジタルスペシャルアドバイザーを受嘱。デジタル市場における競争政策の的確な運営のために活動。
著書:『アドテクノロジーの教科書』(版元:翔泳社)
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