インバナーサーベイとリードバナーアンケート、ブランドリフト調査の新手法の解説
インバナーサーベイとリードバナーアンケートの概要
「インバナーサーベイ」も「リードバナーアンケート」も、ディスプレイ広告の接触者と非接触者のブランド態度をリアルタイムに比較し、その差異を効果として計測するディスプレイ広告の効果測定手法の1つです。調査会社のパネル以外にアンケートできる点が、“一般的な消費者像に近い”とされています。
インバナーサーベイは、海外ではブランディングを目的とするブランド広告主を中心に広く利用されています。日本では(株)カンター・ジャパンやニールセン(株)のサービスが有名です。
リードバナーアンケートは、「インバナーサーベイの問題点(※後述)」を解決するために誕生したソリューションですが、2015年12月現在、β版サービスが出ている程度の、まだ開発途上段階にあるサービスです。
位置づけ(レスポンス効果とブランディング効果)
ディスプレイ広告は、CVをより多く獲得することをミッションとする“レスポンス広告”でありながら、"認知度、メッセージ想起、好意度、購入意向などのブランディング指標を向上させる"ことをミッションとする“ブランディング広告”でもあります。
インバナーサーベイもリードバナーアンケートも、ブランディング広告としてのディスプレイ広告の効果を計測するものであり、レスポンス効果を計測するものではありません。レスポンス効果の計測は「アトリビューション分析」で行い、ブランディング効果を計測する場合のみ、「インバナーサーベイ」や「リードバナーアンケート」を使って、効果測定を行います。
- ブランディング広告としてのディスプレイ広告
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- ミッション:認知度、メッセージ想起、好意度、購入意向などのブランディング指標向上
- 主なクリエイティブ:静止画、動画、インタラクティブ広告(リッチアド)
- 評価指標:ブランド認知、広告認知、メッセージ想起、スポンサー想起、ブランド好意度、購入意向 など
- 計測方法:リードバナーアンケート/インバナーサーベイ/従来型リサーチ(市場調査会社のパネルを使ったアンケート)
「従来型リサーチ」によるディスプレイ広告の効果測定
従来型リサーチでは、調査会社のパネルを使って、広告接触者と非接触者にアンケートを行います。ナショナルクライアントを中心に利用されており、現在主流の効果測定手法です。高価である分、リサーチャーの分析レポートなど、品質の高いアウトプットが期待できます。
しかし、アウトプットはExcelやPowerPointベースのレガシーなレポートが多いので、最近のアンケートツールにあるような、オンライン画面上でフィルタやクロス集計を行い、自由な切り口で分析するには不向きです。
また、通常のネットリサーチと同じ方法でリサーチを行うので、オンライン広告キャンペーンで重要な「アウトプットの速さ」には課題があります。
「キャンペーン期間中にチューニングを行う」というよりは、「キャンペーンの結果を把握する」という利用目的に合っています。
- 実施手順
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- 調査会社から発行されるタグを広告インプレッションと同時に呼び出す。
※広告配信システムのピギーバック(PiggyBack)を利用 - 調査会社のパネルに広告接触履歴情報(Cookie情報)が付与される。
- Cookie情報をキーにして、パネルリサーチを行う(通常のネットリサーチと同じ)。
- 調査会社から発行されるタグを広告インプレッションと同時に呼び出す。
- 主な事業者とサービス
「インバナーサーベイ」によるディスプレイ広告の効果測定
インバナーサーベイでは、ディスプレイ広告枠にアンケート回答用のバナーを配信して、回答者を集めます。回答者はバナーの枠の中でアンケートに回答する仕組みになっており、1~数問のアンケートが実施できます。
インバナーサーベイでは、DSPなどの広告配信枠を利用して、広告クリエイティブの代わりにサーベイバナー(アンケートバナー)を配信します。その際に「広告接触者」と「非接触者」でセグメントを分けて配信することで、ブランディング広告のブランドリフトを計測するものです。
回答結果は、リアルタイムに集計され、広告主はいつでも回答結果をWeb上で閲覧することが可能です。Web上のアンケート結果画面のフィードバックを受けて、広告主はクリエイティブ改善やターゲティング条件の変更などのチューニングを、キャンペーンの稼働中に行うことができます。これが従来のリサーチ会社のパネルを使った広告効果測定との最大の違いです。
シームレスにディスプレイ広告と連携でき、レポートなどのアウトプットが全てWeb上で閲覧できる点、アウトプットのデザイン性などが優れていますが、その反面、正確にユーザーをターゲティングできない(広告接触者/非接触者は分けられるが、性年代などでターゲティングができない)という課題があります。
さらに、課題と言うより、問題なのが「回答精度」です。詳細はインバナーサーベイの決定的な問題で解説します。
「リードバナーアンケート」によるディスプレイ広告の効果測定
インバナーサーベイの決定的な問題
インバナーサーベイは、今まで可視化できていなかったディスプレイ広告のブランディング効果をリアルタイムで計測してくれる効果測定手法です。しかし、調査会社に勤める著者としては、「インバナーサーベイ」による調査結果の精度には不安が少なからずあり、アンケートの自由度という点でも課題があるので、現時点ではあまりお勧めできません。
- インバナーサーベイの4つの問題
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- 【問題1】質問数が少なすぎる
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- 通常のバナー広告枠に質問内容を表示するため、1~数問しか質問できません。この質問数で本当にブランディング効果を計測できるのかは疑問です。
- 【問題2】アンケートの自由度が低い
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- FA(自由回答)質問が設置できないというのは、かなりのマイナスです。FAから得られるユーザーの自由な回答は、数字に現れる回答結果以上の価値があります。
- 通常のネットリサーチでは可能な、回答ロジックがかけられない点もマイナスです。
- 【問題3】優良広告枠の消費
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- バナー内でアンケートに回答してもらうので、「300×250」や「336×280」のレクタングルが中心になります。これらのサイズは、どの商材でも比較的広告効果が高いバナーサイズだと思いますので、できれば「アンケート枠ではなく、広告枠として利用したい」というのが、広告主視点での著者の意見です。
- 【問題4】回答精度の不安(※最重要課題)
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- バナーという表示領域が狭い枠で回答をしているため、ミスクリックが多くなります。スマートフォンでの回答となると、ほぼ結果が信用できません(通常の静止画広告でもミスタップは非常に多い)。
- バナーのインタラクティブ性(ギミック)に釣られて、テキトーな回答が入力されている可能性も高いと思っています。
リードバナーアンケートなら、インバナーサーベイの問題点を解決できる
リードバナーアンケートは、アンケートバナーを広告配信するまではインバナーサーベイと同じ仕組みです。インバナーサーベイでは、バナー内でアンケート回答を行うのに対し、リードバナーアンケートでは、アンケート専用の回答ページで回答する点が異なります。
この方法であれば、インバナーサーベイの問題を解決できます。アンケート専用の回答画面で回答させるため、ミスクリックやテキトーな回答を除外できる(Cookieによる不正回答者の除外)ほか、アンケート機能は通常のネットリサーチとほぼ同様の機能が使用できるので、質問数を増やすことや、FA質問の設置が可能です。
また、アンケートの“プロモーション利用”ができる点もメリットです。アンケートページはカスタマイズができるので、例えば、アンケート回答後に、その商材のキャンペーンページにリダイレクト、プロモーション用動画の再生などが可能です。
調査会社のパネルはあくまでアンケート回答用のパネルなので、プロモーション目的のアンケートが禁止されている場合が多いですが、リードバナーではパネルを利用しないので、このようなアンケートでも実施が可能です。
ただし、掲載されるバナーは通常の広告バナーと同様に、クリックして別ページ(アンケート回答ページ)に遷移するものなので、インバナーサーベイよりも回答率(インプレッションに対する回答完了率)が低くなります。よって、サンプル回収コストが増加するという課題が残っています。
「リードバナーアンケート」「インバナーサーベイ」どちらがディスプレイ広告のパートナーに?
「リードバナーアンケート/インバナーサーベイ」について、両方とも、「アウトプットの速さ」に強く、リアルタイムにアンケート回答が保存され、Web上で結果を自由に分析できます。
リードバナーアンケートは、調査精度や質問内容の自由度という点で「インバナーサーベイ」に勝りますが、仕様上、インバナーよりも回答率が低くなるので、CPM課金型のWeb広告との連携にはコスト面の解題が残ります。
インバナーサーベイには、“調査精度への不安”という決定的な問題が存在します。
アンケートバナーについて、著者はインバナーサーベイよりもリードバナーアンケートの方が、クリアすべき課題が少なく、広告主としても利用したいと思えます。このような考えから、所属する(株)マクロミルで、リードバナーアンケートのサービス開発を進めています。
【DEMO】
リードバナーアンケート、インバナーサーベイ、どちらも課題は残りますが、この課題をクリアできれば、「アンケートバナーという効果測定手法は、リアルタイムに改善が求められるディスプレイ広告の、強力なパートナーになれる」と著者は考えています。
この記事の著者
広瀬 信輔(ひろせ・しんすけ)
マーケティング情報サイト『Digital Marketing Lab』の運営者。
1985年、長崎県佐世保市生まれ。西南学院大学 経済学部 国際経済学科 卒業。
2008年、株式会社マクロミルに入社。現在は同企業のオンラインマーケティング部門の責任者として、デジタルマーケティングを推進。
株式会社イノ・コード 取締役 CMOも務める。
2017年、ディーテラー株式会社を創立。メディアプランニング、Web広告運用、SEO対策、Webサイト制作など、デジタルマーケティング領域のコンサルティング及びアウトソーシングサービスを提供。ビジネスメディアでのコラム執筆やイベント出演、大手企業のマーケティングを支援。
2021年、公正取引委員会 デジタルスペシャルアドバイザーを受嘱。デジタル市場における競争政策の的確な運営のために活動。
著書:『アドテクノロジーの教科書』(版元:翔泳社)
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