リターゲティング広告の仕組みと純増効果測定方法「スプリットテスト」の解説 ~Fringe81 佐藤様インタビュー~

ExchangeWire Japanに転載された記事です。

リターゲティング広告、ダイナミックリターゲティング広告の仕組み

リターゲティング広告とは

リタ―ティング広告とは行動ターゲティング広告の1つであり、アドネットワークが登場した初期から多くの広告主に利用されてきた広告です。現在でもアドネットワークやDSPに広告出稿している広告主のほとんどが、リターゲティングを行っているでしょう。

リターゲティングでは1度自社のWebサイト(正確にはリターゲティング用のタグを設置できるメディア)に訪問したユーザーをリスト化し、そのリストに対して広告配信を行います。自社サイトへ訪問経験があるということは、それだけ興味関心レベルが高いユーザーということになるため、他のオーディエンスターゲティング等と比較して、媒体レポート上のCVやCPAが良くりやすい仕組みです。

リターゲティングの仕組み

ダイナミックリターゲティング広告とは

ダイナミックリターゲティング広告は、リターゲティング広告の一種です。ダイナミックリターゲティング広告では、広告主の商品DB(データフィード)と広告配信システムを接続させます。閲覧した商品ページや、サイト来訪回数、その他の行動データをインプットし、データフィードの中からユーザーに案内すべき商品をシステムが判断し、広告クリエイティブを動的に作成する仕組みを有しています。

通常のリターゲティング広告では、商品数が多いサイトの場合、クリエイティブを用意することが非常に手間です。また、閲覧ページ情報などからユーザーごとに適切なクリエイティブを配信するという、ターゲットとクリエイティブの組み合わせを1つ1つ考えることもなかなか難しくあります。そこで、リアルタイムに近い行動情報をもとに、表示するクリエイティブを自動作成する、ダイナミックリターゲティング広告の仕組みが重宝されています。

その特性から、商品数が多いECサイトや人材、不動産、旅行などの業界でよく利用される広告です。また、ダイナミックリターゲティング広告は、データフィード広告や動的リターゲティング広告とも呼ばれます。有名なサービスに、Criteo(クリテオ)や、Googleの動的リマーケティングがあります。

ダイナミックリターゲティングの広告例

リターゲティング広告のコンバージョン(広告効果)は正しいのか?

広告主の著者としても、このターゲティング広告はCV獲得の効率的な手段として、非常に魅力的なものです。アドネットワーク登場以降からずっと利用してきた広告メニューです。

しかし、カンファレンスやセミナーで他のマーケターの方々とお話しすると、多くの広告主がリターゲティング広告に過剰に出稿しているように感じます。特に中小・中堅規模の広告主の中には「ディスプレイ広告はリタゲ以外やっていない」という方も少なからずいらっしゃいました。

本当に効果があればそれで良いのですが、リターゲティング広告のCV計測には“落とし穴”があります。今回は、リターゲティング広告の“純増効果”を調査されているFringe81社の佐藤様にインタビューしてきました。

Fringe81社 佐藤様に聞く、リターゲティング広告のワナ

純増効果を計測する必要性

[広瀬]
まず、リターゲティング広告の効果測定を実施された背景を教えていただけますでしょうか?

[佐藤]
弊社のお客様に多数のカテゴリポータルサイトを運営されている事業会社様がいらっしゃいます。そのお客様はダイナミックリターゲティングを実施されているのですが、「媒体レポートのCVの増加数と、データベース上の純増CV数がどうしても合わない」と相談されたことが、調査を行ったきっかけです。このお客様は特に新規会員の獲得が重要なKPIであり、CVを効率的に獲得できるリターゲティング広告に月間1,000万円以上出稿されていました。

その他、不動産、旅行、人材、EC系など、データフィードが大きいお客様ほどリターゲティングへの予算の偏りが見られ、同じような疑問・課題感を持たれているお客様が多くいらっしゃいます。

Fringe81 佐藤洋介氏

[広瀬]
商品数が多い企業や、比較検討期間が長い企業はリターゲティング広告の主要な利用層ですね。リターゲティング広告の予算比率は高い印象があります。

[佐藤]
仮説として、「リターゲティングを行わずとも、自然検索等の広告以外の経路でCVしていたユーザーが多数存在するのではないか」というのがありました。つまり、サイト訪問者はそもそもブランドや商品に高い関心があり、広告を表示しなくてもCVする層が多く存在する、ということです。

実際に、リターゲティング広告の予算を3倍に増やし、媒体レポートもそれと比例してCVが伸びたものの、データベース上の全CV数は10%程度しか伸びていないという事例もあります。

リタゲの純増効果

[広瀬]
「広告の成果が正当に評価されておらず、広告を表示しなくても良い層に対して過剰に広告出稿が行われている可能性がある」いうことですね。

[佐藤]
はい、正当にリターゲティング広告を評価するには、広告を配信したことにより、“広告を配信しなかった時と比較して、どれだけCVが純増したか”を検証する必要があります。

純増効果の計測方法

[広瀬]
リターゲティング広告に限らず、デジタル広告の評価方法として、DMPや3PASでタッチポイントを取得し、成果配分を行うなどのアトリビューション分析があります。今回ご説明いただく効果測定方法はこれとは異なるのでしょうか?

[佐藤]
はい、異なります。まず、サイト訪問者にはリターゲティングのタグが出る前にタグマネージャー「TagKnight」のCookieを発行します。そしてTagKnightでサイト訪問者にIDを振り、ID単位で2つのグループに分けます。

次にユーザを分類します。一方のグループにはリターゲティング用のタグが呼び出される様に設定し、広告配信対象とします。もう一方のグループはリターゲティング用のタグが呼び出されない様に設定します。

また、リターゲティングしないグループのユーザーがサイトに再訪問した場合、初回訪問時にリターゲティング非対象グループ用のCookieを発行しているため、リターゲティング用のCookieが発行されることはありません。このように、タグを管理するタグマネージャーでタグ発火の管理をすることにより、リターゲティング対象と非対象のグループを作ることが可能です。

タグマネージャーによるリタゲタグ発火のコントロール

[佐藤]
そして、それぞれのグループのサイト流入数とCVをカウントし、グループごとにCVRを算出します。そのCVRの差が広告によるリフトアップ値です。例えば、広告を出していないグループのCVRが1.18%、広告を出しているグループが1.3%のCVRとなりました。この場合は110%(1.3%÷1.18%=110%)でリフトアップしたということになります。

スプリットテストによるリタゲ純増効果の計測

[広瀬]
リサーチ会社で実施するブランドリフト調査に近いですね。ブランドリフト調査では広告接触者と非接触者でグループを分け、グループ間の回答の差異をブランディング効果とします。

ブランドリフト調査

[佐藤]
はい、実はブランドリフト調査の手法がこの評価方法のヒントになっています。

【事例1】3倍違うCPAの結果から、広告投資への考え方が変わった

[佐藤]
先ほどのダイナミックリターゲティングを実施されているお客様の事例ですが、今までの計測方法だとリターゲティング広告のCPAは2,000円程度という計算でした。しかし、純増効果で見た場合、CPAが3倍の6,300円あるということが分かりました。

これは非常に衝撃的な結果で、お客様は目標CPAを2,000円に置いていて、広告代理店がその目標をクリアする媒体に配信を寄せながらが運用していました。しかし、実際はその目標をクリアしていなかった。だから媒体レポートとデータベース上のCVとの乖離が大きかったのです。

[広瀬]
純増効果を計測することで、本当のCVRやCPAが分かったということですね。それほど結果に差異が出たのであれば、リターゲティングの予算を抑え、新規にリーチするためのオーディエンスターゲティングの配信を増やすなど、アロケーションも変わりそうですね。

[佐藤]
はい。「ダイナミックリターゲティングに対してどれだけ出稿すべきなのか、どのくらいの目標値を設定すべきなのか」「新規でCVを促すようなリターゲティング以外の広告というのは、CPA6,000円くらいでも良いのではないか」という議論に発展しました。

さらに、“純増する商品カテゴリと純増しない商品カテゴリが存在する”ということが分かり、「ダイナミックリターゲティングのフィードを見直す、そこをしっかりとマネジメントしていく」という話にもなりました。

[広瀬]
ダイナミックリターゲティングでない、通常のリターゲティング広告でも同じことが言えそうですね。リーセンシー、新規訪問者/リピート訪問者、閲覧したページなど、リストは様々な切り口で作成できます。一括でサイト訪問者をリターゲティングするのではなく、本当に広告を表示すべきユーザーが誰なのかを考え、広告を打つべきですね。

【事例2】広告の出し過ぎに注意!リタゲするとコンバージョンが減った!?

[佐藤]
不動産のお客様の事例です。このお客様は複数のダイナミックリターゲティング媒体を利用されているのですが、複数実施するよりも単体で実施した方がリフトアップ値が高くなるという結果になりました。つまり、広告の出し過ぎにより、CVRが下がったということです。しかもスマートフォンだと、リフトアップしないどころか、リターゲティングしないグループよりもCVRが下がるという結果になりました。

Fringe81 佐藤洋介氏2

[広瀬]
複数の媒体を利用すると、フリークエンシーのコントロールが難しくなり、過剰出稿を招きやすくなると思います。スマートフォンでCVRが下がったことも何となく納得できます。モバイルデバイスだと、広告の画面占有率が高くなるため、同じ広告が何度も表示されたら、ユーザーも嫌がるでしょうね。

【事例3】新規・既存ユーザーで広告への反応が違った

[佐藤]
ファッションEC系のお客様の事例もあります。この調査は、セール時期とプロパー時期、新規ユーザー(未購入者)と既存ユーザー(購入経験者)とそれぞれで純増効果を計測するということを行いました。

このお客様の場合、時期ではなく新規ユーザーと既存ユーザーでリターゲティング広告の効果に差が出ました。新規ユーザーのリフトアップが高く、既存ユーザーはセール時期もプロパー時期も低いリフトアップ値でした。その結果を受けて、既存ユーザーへのリターゲティング広告予算を見直すという話に発展しました。

[広瀬]
分かりやすい事例ですね。1度購入しているユーザーは既にそのサイトとの信頼関係ができており、商品を購入したいというニーズが発生した際に想起される対象となっているということでしょうか。そうであれば、広告予算は新規ユーザーに多く使われるべきで、初回購入CVの重要度も高くなりますね。

リフトアップによる効果測定がマーケティングの投資対効果を改善する

[広瀬]
今回お話しいただいた効果検証の話は、マーケティング、マーケターにとって非常な重要なことだと思います。なぜ今までこの話が出てこなかったのでしょうか?出稿した広告予算に対して、全体のCVが伸長しているかどうかというのは当然にウォッチしていると思うのですが。

[佐藤]
それが現場レベルでは当然では無く、マーケターが有料集客のCVのみを追っているケースがあり、全体のCVを追っている方ばかりでは無いのです。

そして効果測定においては、媒体レポートを正にしているのと、アクセス解析やアトリビューション分析の結果を正にしているのと2パターンあります。媒体間の食い合いは媒体が増えるほど高い確率で起こります。よって、前者では各媒体レポートのCVを足し上げると全体CVよりも多くなるということも多いです。

後者の場合も、1つのCVに対して広告がどう関与してきたかという接触履歴は分かるのですが、それが自然検索などの他の経路と食い合いをしているかまでは分かりません。結局、従来の効果検証方法では純増効果は測れないということです。

Fringe81 佐藤洋介氏3

[広瀬]
組織、効果測定方法の2つの問題が存在し、広告効果を正しく計測できていなかった、というところでしょうか。経営者やマネジメント層は、もちろん全体のCVをKPIとしていると思うので、この問題には注目していただきたいですね。

また、リフトアップという考え方は僕らリサーチ会社の領域、つまりブランディング広告の効果測定方法だと思っていたのですが、ダイレクトレスポンス広告でもこの考え方を取り入れるべきということですね。

[佐藤]
はい。ブランドリフト調査から学ぶことは多く、結局は基準値というかノルム値がないと比較できないというのが分かってきました。今までのリターゲティングの盲点だったのは、何もしないユーザーのCVが分からなかった、評価していなかったという点です。これを明らかにすることが、マーケティングの投資対効果を上げる手段として非常に有効であると考えています。

[広瀬]
仰る通りだと思います。この方法であればリターゲティング広告以外にも応用が効きそうですね。最近、全数でのアトリビューション分析に限界を感じていたので、非常に興味深かったです。本日はありがとうございました。

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この記事の著者

広瀬 信輔(ひろせ・しんすけ)

マーケティング情報サイト『Digital Marketing Lab』の運営者。

1985年、長崎県佐世保市生まれ。西南学院大学 経済学部 国際経済学科 卒業。

2008年、株式会社マクロミルに入社。2015年12月現在、Webマーケティング部門の責任者として同企業に所属。

株式会社イノ・コード 取締役 CMOも務める。

2017年、ディーテラー株式会社を創立。メディアプランニング、Web広告運用、SEO対策、Webサイト制作など、デジタルマーケティング領域のコンサルティング及びアウトソーシングサービスを提供。ビジネスメディアでのコラム執筆やイベント出演、大手企業のマーケティングを支援。

著書:『アドテクノロジーの教科書』(版元:翔泳社)

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